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糸井重里:何者でもない人になれる場所、ツリーハウス

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ほぼ日刊イトイ新聞の皆さんが去年から被災地である宮城県気仙沼市や東北のあっちこっちででツリーハウス企画を初めています。「日本の住まい」というテーマで色々な人のお話をお伺いしている中、究極の夢の家「ツリーハウス」とはどういうものなのか?なぜ気仙沼でそれを建てたいのか?その疑問を糸井重里さんに聞きに行きました。対談の一部をここで掲載します。残りは来るPingMagの書籍に、お楽しみにしてください!

shigesato-itoi-and-tree-houses-a-home-that-makes-you-free01Photo: 川瀬一絵(ゆかい

トム:今は日本の住まいというテーマでいろんなコンテンツを集めている中で、ツリーハウスの「へんなミーティング」(ツリーハウス企画のキックオッフミーティング)にも参加させていただいて、ツリーハウスもある意味では家の一形態かも知れないと思って。その辺のお話を伺えたらと思います。「へんなミーティング」には参加したんですけど、未だに糸井さんがなんでツリーハウスに辿り着いたのか分からないんですよね。なぜツリーハウスだったんですか?

糸井:子供の頃にやりそこなったことなんですよ。中年の親父が、急にバンドやるじゃないですか?高いギター買ったりして。子供じゃないから例えばドラムを叩くにしてもここで叩けばいいとかわかりますし、飲みにいくより安あがりで遊べるんですよね。あれはきっと、若い時にやりかけたけどもうひとつ上手く行かなかった人が、あるいは当時はモテちゃったんだけど、その後どうもギターを外したらモテなくなった人とかが始めるわけですよ。バイクもそう。ハーレー乗ってる人はみんな子供のとき買えなかった人です、きっと。 それ全部、子供の時の敵討ちなんですよ。楽しい敵討ち。ツリーハウスっていうのは、大人のいないところで何をするかっていう悪い場所みたいなところと、高い所で大工仕事みたいなことが重なっていて、少年にとっては一番の憧れなんですが、できないんです。やってみてまた改めて分かったんだけど、ものすごく難しい。子供には無理です。なまじの大人にも無理。

東北に作ったのは、みんなの心の中にあったらいいなと思ってた思い出が形になったら人は見に来るだろうなあって思ったからです。東北の被災地がどうだって、がれきがなくなったら普通の場所に、ただの何にもない場所になっちゃう。何にもない場所に「これからも忘れないでね」って言っても人は忘れる。忘れることは否定できないんです。それは当たり前。「忘れないでね」って言うには、忘れないだけのサービスというか、やっぱり面白いことしないと。今は日本中どこに行っても駅前などに”水と緑の都”とか書いてありますが、それじゃあ来ないんですよね。だから”水と緑と頭の上のイチゴ”とか書いてあれば「おっ!?」ってちょっと気になるじゃないですか。そういうイチゴにあたるものを東北に作りたいなあと思っていて、子供の時の夢の始末とみんなが喜びそうだという要素、そして東北の人たちとっていうことをセットにして、始めたんです。

ひとつできるとやっぱり、張り合いができるというか、「あっできるんだ」と思えるので最初のひとつは急いだんです。それがないと、ずいぶん時間が経ってるけど未だにひとつもないってなっちゃうんです。ひとつあるおかげで1個半とかいう言い方ができるようになって、あちこちにあるできかけのものも次は何月にスタートですとか言っても、みんな待てるんです。今はそういう状態で、やりかけか企画中なのが7つぐらいあります。

イギリスではツリーハウスってどうなんですか?

shigesato-itoi-and-tree-houses-a-home-that-makes-you-free02気仙沼に作られたツリーハウス1号

shigesato-itoi-and-tree-houses-a-home-that-makes-you-free03岩手県のアーク牧場にある2号。

トム:ツリーハウスは同じものですね。何とも言えない魔法の場所。でもなんで、木の中に家を作りたがるんだろう。

糸井:人が猿のようだったからじゃないかな。ちょっと戻ると基本的に猿のようなんですよ。猿は、うんこするにしても木の上にいたからしっぱなしなんです。トイレとかじゃなくて、上でポンとして「またね」って行っちゃう。だから上にいることの自由さを鳥のように味わってる。猿のようだった時のことを思い出すんだと思う。だって、ツリーハウスの中に腰掛けたら高さは2階建ての家の窓と同じようなものなんです。2階で外を見ても面白いと思ったことないでしょ?同じことなのに、すごい面白いんですよ。

トム:ツリーハウスというとデッキだけというものもありますよね?でもこのツリーハウスはもっとしっかりと家になってる。

糸井:一応、僕らが考えるツリーハウスは、壁と屋根があることって定義したんです。でも別に、窓には何もはまってなくてもいいと思う。

トム:木に登るということだけじゃなくてその中にお家を造るんですよね。子供も何でも家にするじゃないですか。

糸井:家の中に家をつくりますよね。

トム:大きい段ボールでもなんでも使って。

糸井:マイテリトリーなんじゃないですか。「そこはお母さんは入っちゃダメ!」とか言うじゃない。昔はですけど、思春期になった時、男は車を欲しがるんですよね。女は一人暮らしをしたがった。どちらも次の世代を産む時の準備なんですよね。みんなそれまでは、自分の法律的な家ですって場所に住んでるけど、そこを離れて宙ぶらりんになりたいって欲望がそこで満たされていく。

トム:ツリーハウスだと好きなものだけの家がつくれますよね。本当に小さい頃段ボールでつくった家と同じ。あれはお城にもなるし、ボートハウスにもなるでしょ。

糸井:だからここで住民票を持っちゃったら楽しくないんですよ。何者でもない場所なんですよね。それは茶室も同じ。信長だとか秀吉が、狭い入り口を通ってはいるじゃないですか。

トム:茶室はお茶をたてて飲む場所って定義されてますよね。基本的には違うことはやらない、お茶のための場所。

糸井:でもお茶は言い訳ですよね。お茶じゃなくていいんです。つまり、刀をもって入れない場所だから、人と人とがあそこの場所では安心して心を開ける場所になってる。お茶は建前なんです。今も黒田官兵衛という大河ドラマの中で、信長がお茶にかこつけていろんな政治の仕組みをつくっていくところをやってますよね。「これはすごいお茶碗だ」みたいなことをさんざん言う。で、このお茶碗を誰かにあげたとすると、その人はものすごい価値を持つわけです。逆に信長様のところにこういうお茶碗を差し出すと、「この茶碗は城ひとつに値する」って城ひとつできちゃう。茶道の外側に価値体系ができるんです。ツリーハウスにそれはないけど、とってもよく似てますよ。オバマ大統領とか来て欲しいですよね。

トム:そうなると2人のオバマが。前に仰ってましたよね。オバマになろうとするって。

糸井:僕はいざという時はいつもオバマになろうとしてますよ。すこしくだけてるんですけど、あんまり失礼にならないような。でも誰も俺がオバマだとは気づかないからさ。

オバマ同士の対談は見たいですね!ところで、目的のあるツリーハウスというのは、ありなのかな?

糸井:ありだと思います。できちゃったらもう自由なんですよ。噴水をひとつ作ってその噴水の目的を何にしても、噴水は噴水なんで、案外みんなのものになる。”この周囲、誰も俺以外は入るべからず”っていうと別だけど。広告の目的で作ってもいいって言ったのはそこなんです。企業の名前が書いてあっていいよ、全然。例えば自動車レースの車に、マルボロとかって書いてあるじゃない?あれと同じで、それがあるから車が走ってるみたいなところがあるから。今の時代にスポンサーであるということを言うっていうことは、それはそれで面白いし、あるいはロゴを入れなくてもスポンサードするっていうのもあると思う。 今、動物愛護団体の引っ越しをやってるんですけど、そこで保護犬のケージのあるスペースで月3万円でプチオーナーになりませんかってことをやってるんです。3万円払った人がそこのスペースは私がスポンサーしてるんだってことで、そこにいる犬はいずれ貰われていくし、また新しく入る。でも私が協力して光熱費とかの足しになってるんだっていったら、自分のお金の使い方として嬉しいじゃないですか。それとおんなじで、企業でも個人でも、「俺、ツリーハウスつくったんだ」っていうのは大いによろしいと思います。トムもPingMagで儲けてちっちゃく焼き印とかどう?

いいですね。PingMagツリーハウス!

shigesato-itoi-and-tree-houses-a-home-that-makes-you-free04Photo: 川瀬一絵(ゆかい


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